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童話作家・九十九耕一のブログ
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オレンチジュース

「あ、これはいいなぁ。よし、買おう!」
 フリーマーケットでお父さんが見つけたのは、でっかいガラスコップみたいなの。持つところがついていて、フタもついていた。それから、スイッチのついた台。台にはコンセントがつながっていた。
「それ、なに?」
「これはジューサー・ミキサーだよ。これがあれば、オレンチジュースが作れるんだ」
「へー、オレンジジュースが作れるんだ」
 そう言えば、デパートの地下にあるジュース屋さんで、これと似たマシーンを見たことがある。そのお店では、いろんなフルーツジュースが売っていた。
 ぼくはバナナジュースが一番好きなんだけど、オレンジジュースもわるくない。
 家に帰ると、お父さんは冷蔵庫から牛乳を出し、それからバナナを持ってきた。
「オレンジジュースじゃないの?」
「ん? 太一はバナナジュースが好きだろ?」
 そうなんだけど、お父さんはさっき「オレンジジュースが作れる」って言ったじゃん。
「ちがう、ちがう。『オレンチジュース』だ。オレのうちで作るから、オレンチジュース」
 お父さんお得意のオヤジギャグ。でも、笑っちゃった。「オレンチジュース」って、すっごく楽しそう。
 バナナの皮をむいて、ポキポキ折って、ミキサーに入れる。牛乳を入れて、フタをして、スイッチオン! 中身がガーッと回って、あっという間にバナナジュース……ううん、オレンチジュースのできあがり!
 すっごくおいしかったけど、お父さんもぼくも、白いヒゲがくっついた。
「ぼくも作りたい!」
「いいよ。でも、明日な。お父さんが、太一のオレンチジュースにふさわしい材料を買ってきてやるからな」
 お父さんは約束してくれた。ぼくにふさわしい材料って、なんだろう?

 次の日、学校から帰ってくると、お母さんに呼ばれた。台所で、オレンチジュースを作る特訓をするんだって。
「まず、ミキサーに水を入れて。半分より、ちょっと多いくらい」
 ぼくは言われたとおりにした。
「フタをしないで、スイッチを入れてみて」
 スイッチオン!
「わ、わーっ!」
 たいへんだ! 水がバシャバシャ飛び出してきた!
「早くスイッチを切って!」
 お母さんの声に、あわててスイッチを切る。台所は水びたしだ。
「ジュースを作るのに一番大切なことは、ぜったいにフタを閉め忘れないこと。せっかくのジュースが、こぼれちゃうからね。さあ、わかったら、台所をふいて」
 ぞうきんを渡すお母さん。
「えー? ぼくがふくの?」
「太一のための特訓なんだから、太一がふかなくちゃ。ちゃんと床もふくのよ」
 ぼくはしぶしぶ、ぞうきんを受け取った。
「うわー、すっかりきれいになっちゃった」
 ぞうきんがけが終わった台所を見たお母さんは、なんだかうれしそう。
 ……ぼく、だまされた?

「さあ、オレンチジュース、作るぞー」
 夜、帰ってきたお父さんは、スーパーの袋をぼくに渡した。中には、赤茶色の丸いものが入っている。
「これ、なに?」
「ライチ。太一の最初のジュースは、ライチジュースに決まってる」
 ライチと太一。……またオヤジギャグだ。ライチなんて、あんまり食べたことないや。どんなジュースになるんだろう?
 ちょっとかたい皮をむくと、白くて、半分透明な実が出てきた。タネを取って、実をミキサーへ。水も入れて、ハチミツも少し入れた。
 フタをするとき、お母さんを見たら、クスクス笑っていた。まったく、もう。
 スイッチオン! 中身がガーッと回って、ぼくの第一号のオレンチジュースが完成! 白くにごったみたいなジュースだった。
 飲んでみると、ふしぎな味がした。
「うーん、南国の味だね」
「ナンゴクの味だ」
 よくわからないけど、ぼくもそう言ってみた。

「オレンチジュースの楽しいところは、好きな組み合わせができるところだ」
 お父さんは、そう言う。
 ぼくはニンジンがきらいだけど、お母さんが作った、リンゴとニンジンのジュースは飲めた。甘く煮たカボチャと牛乳のジュースは、あたためてもおいしかった。バナナと、オレンジと、ブドウと、牛乳で作ったミックスジュースは、信じられないおいしさだった。
「日曜日は、太一の好きなジュースを作っていいぞ」
 お父さんがそう言ってくれたとき、すっごくうれしかった。なんか、実験みたいだもん。
「ただし、まずいジュースができても、残さずに飲むこと。これはオレンチジュースのルールだ」
 このルールは、けっこうつらい。グレープフルーツとゴーヤのジュースは、にがくて、飲むのがたいへんだった。
 ある日、お母さんがノートをくれた。「オレンチジュース実験ノート」って書いてある。
「自分で作ったジュースの、材料とか、味の感想を書いておきなさい。絵も描いておけば、色もわかるわね。このノートは、太一ジュースの、秘伝の書になるのよ」
「ヒデンのショ」って、ちょっとカッコイイな。忍者っぽいかも。
 今度の日曜日には、キュウリとハチミツのジュースを作ってみよう。「キュウリにハチミツをつけて食べると、メロンの味がする」って聞いたことがある。成功したら、メロンジュースになるかもしれない。






ご注意  このお話の著作権は著者・九十九耕一にあります。

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花ウサギ

 山道を歩いているときに、耳にスミレの花をはさんだ、茶色いウサギを見たことがあります。「おしゃれなウサギかな?」と思ったのですが、そうではありません。
 野山の動植物に詳しい友だちに話したところ、「それは花ウサギだよ」と教えてくれました。見た目はウサギですが、なんと植物なのだと言うではありませんか。
「耳に見えるのは葉っぱ。頭や胴体に見える部分は球根で、手足は根っこなんだよ」
 友だちはそう説明してくれましたが、すぐには信じられませんでした。
「だって、動いていたよ。ピョンピョンはねて、やぶの中に逃げていったんだ」
 私の言葉に、友だちはうなずきます。
「それが花ウサギの最大の特徴でね。自分で動いて、移動するんだよ。居心地のよさそうなところを見つけると、穴を掘って、落ち着くのさ」
 そんな不思議な植物、今まで聞いたことがありません。しかも、驚くべき特徴は、まだありました。草や葉っぱを食べると言うのです。
「……やっぱり、ウサギなんじゃないの?」
「一種の擬態だね。ほら、ウサギの姿をしていれば、動いていても、葉っぱを食べても、怪しまれないだろ?」
 なんだか、わかるような、わからないような……。「食べる」というのも、植物らしくないし……。
「正確に言うと、養分をとっているんだ。ほら、ハエトリ草とか、モウセンゴケとかと同じ」
 なるほど。そういう植物もあることはありますね。
「スミレの群生地を見つけた人が、そこでサンドイッチを食べていたら、レタスだけが抜き取られた、なんて話を聞いたことがあるよ。スミレじゃなくて、花ウサギの群生地だったんだね」
 レタスだけなくなるなんて、さぞやびっくりしたことでしょう。
「植物園にも植えるんだけど、しょっちゅう脱走されちゃうんだよね。走るとウサギ並みに速いから、なかなか捕まえられない。でも、最近の研究でね、子守歌を歌うとおとなしくなることがわかったんだ」
 聞けば聞くほど、不思議と言うか、愛らしいと言うか。
 今度、山でおしゃれなウサギを見かけたら、子守歌を歌ってみようと思います。



ご注意  このお話の著作権は著者・九十九耕一にあります。

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   森の冬時計

 時計が止まると、もうすぐ春がやってきます。
 その時計は、森のまん中の、大きなケヤキの木のてっぺんにあります。円い時計で、文字盤には数字の代わりに、いろんな木の実がついていました。
 初雪が降ると、この時計が動き出します。と言うのも、この時計の歯車は、雪の結晶だからです。
 初雪の日に、時計の扉を開けるのはリスの役目。舞い降りる雪は、扉に吸い込まれ、パズルみたいに、はまるべき場所へはまっていきます。そして歯車として回り出すのでした。
 すべての歯車がはまるころには、文字盤のまん中には二本のつららが伸びて、針の役割をします。さあ、今は何時何分でしょう? 時計を見てみると、ちょうど「クルミ時ドングリ分」でした。
 歯車が雪の結晶なので、寒い冬の間しか動きません。時計が止まるのは、冬の終わり。なので動物たちは「冬時計」と呼んでいました。
 歯車や針がとけ出すと、冬時計は最後の力をふりしぼり、チャイムを鳴らします。空洞の丸太をたたくような、コーン、コーンという音が森に響くと、冬眠していた動物たちが目をさまします。
 そういうわけで、この森には、春寝坊の動物は一匹もいないのです。



 このお話は、私の名刺の裏に書かれたものです。
 私の名刺の裏には、お話が載っています。ときどきお話を変えるので、コレクションしている知人もいるんですよ(笑)。
 一応、このお話の著作権は、著者である九十九耕一にあることをお断りしておきます。

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ストーリーゲート
私も執筆しています。
コルクンの本棚
プロフィール
HN:
九十九耕一
年齢:
53
性別:
男性
誕生日:
1970/10/10
職業:
童話作家
自己紹介:
童話を書くかたわら、「つくも堂まめ本舗」として豆本も作っています。
創作のこと、豆本のこと、コルク人形「コルクン族」のことなどを、こちらに書いていこうと思っています。
ブログタイトルは「どんぐりも背くらべ」。ことわざ「どんぐりの背比べ」は、なんだかあまりいい意味ではありませんが、「の」を「も」に変えたら、すごく活発で、チャレンジ精神にあふれた感じになりました。どんぐりは、元気なほうがいいですよね。
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